岩手の船大工の復興を撮り続けた写真集出版・・震災12年
東日本大震災からの再建を目指す造船所を、長年撮影してきた富士見市の写真家、野田雅也さん(48)が3月、自身初の写真集「造船記」(集広舎)を出版した。11日開かれた追悼式出席のため、造船所のある岩手県大槌町を訪れた野田さんは「人々が復興のため格闘した記録を残すことができた。次の世代に語り継ぐ一助になれば」と語る。(久保健一)
富士見市の野田さん「記録残す」
野田さんは2011年の震災発生翌日、被災地へ向かう友人の車に同乗し、福島県の原発事故現場などを回った。
大槌町に入ったのは発生から1週間後。市街地が一面のがれきに覆われる中、2階建て民宿の屋根に観光船が乗り上げている光景が目に飛び込んできた。2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震による津波被害地を取材した際、建物の上に漁船が残されていたのを思い出した。
この観光船は、現場から数百メートル離れた町内の造船所で点検を受けていたところを津波で流された。野田さんが造船所を訪ねると、船大工の職人たちが、黙々とがれきを片付けていた。壊滅的な被害を受けても、「やんねばなんねえ」と再建を目指す姿に心を打たれ、町の取り組みを撮り続けるようになった。
22年3月までの11年間で、約10万枚の写真を撮影した。印象に残っている一枚は、被災翌年の正月、職人の弁当のご飯の上にのっていた真っ赤ないくらを写したものだ。職人が船を修理した漁師からお礼としてもらったものだと聞き、他人を思いやる余裕さえ持てないつらい時期を乗り越え、「人と人のつながりが回復してきた」と実感する瞬間だった。
21年3月11日、10年目の追悼の日に、打ち上げ花火を撮影していると、子どもたちの「すごいね」という歓声が耳に入った。地元が明るさを取り戻した今だからこそ、当時の記録を伝える必要がある、と写真集を作ることを決意した。
それから2年。クラウドファンディングによる資金支援も得て写真集が完成した。造船所で復旧作業に当たる職人たちや、再開された伝統芸能の「 虎舞 」や祭りに取り組む地元の人たちの様子をフルカラー240ページの一冊にまとめた。
「海外の大地震の被災者にも、日本が成し遂げた復興の足取りを見てもらいたい」と、英語による写真説明も併記した。2月に起きたトルコとシリアの大地震の被災地にも心を寄せる。
大槌町内では、出版に合わせて写真展を開催している。震災の記憶がない子どもたちも訪れており、野田さんは当時の様子を語って聞かせている。「写真を撮ることは、そこに居合わせた人しかできない。今後も記録を残すことの責任を感じて仕事をしたい」。12年の時を経て、思いを新たに語った。
https://www.yomiuri.co.jp/local/saitama/news/20230311-OYTNT50220/