造船所で知る「つながりの深さ」 写真家が追った町の復興、写真集に(朝日新聞デジタル)

 岩手県大槌町の小さな造船所を通して、町の復興を追い続けた写真家がいる。埼玉県富士見市の野田雅也さん(48)。東日本大震災から12年にあたる11日に集大成の写真集「造船記」(集広舎)を出版する。被災地はどう復興していくのか。自分なりの答えを出した。

 野田さんは2004年に起きたスマトラ沖地震とその津波被害を現地で取材した経験がある。東日本大震災が起きると、すぐに車で被災地を巡り、11年3月17日に大槌町に足を踏み入れた。

 人口の1割近い1286人が犠牲になり、市街地は廃虚のようだった。民宿の屋根の上に観光船が載り、世界中に報道されていた。

 その観光船は近くの「岩手造船所」で保守点検中に、津波に流されていた。

 野田さんはがれきで埋まったその造船所で、再開に向けて黙々と片付けを始めていた船大工たちに心を奪われた。彼らに頼み込み、時には酒を酌み交わしながら、撮影を重ねた。

 町に682隻停泊していた船の98%が被災した。特産のサケの漁に間に合わせるため、造船所の社長は定置網船の修理を後払いで請け負った。再開後初の漁で取れたサケが造船所に振る舞われるのを見て、野田さんは「つながりの深さと復興の第一歩を感じた」。

 家族や家、同僚を失いながらも槌(つち)音を響かせ続けた船大工の日常も撮った。「町の潤滑油のようだ」と思った秋祭りや郷土芸能の様子もレンズからのぞいた。写真集には、復興の歩みを追った222点を収めた。ページが進むにつれ、町が再生して色彩豊かになっていくのがよくわかる。

 野田さんは「町が復興に向かう力とは何だろう」と考えながら撮影を続けた。そして、「一心に、家族や子孫のために何とかしたい、という一人ひとりの愛情が集まって、町はできていくのだ」と実感した。

 写真集には英訳の説明も付けた。「トルコやシリアの地震被災者にも見てほしい。いつか復興できると感じてほしい」という。

 造船所は近年、不漁続きの影響もあり、修理の仕事が減っている。それでも、浜田龍人さん(30)は震災後に横浜市から帰郷し、父喜成さん(60)と一緒に働いている。「写真で初めて当時を知った。よくあの状態から立ち直ったと思う。海には欠かせないこの仕事を受け継いでいきたい」

 写真集はB5判240ページで、税込み3850円。クラウドファンディングで集めた180万円と自己資金で1500部を発行した。

 出版と震災12年に合わせ、町文化交流センターで12日まで約50点をパネル展示している。東京都新宿区のアイデムフォトギャラリー「シリウス」でも4月13日から19日まで展示を予定している。(東野真和

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